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伝統の再生:遠野未来設計事務所のOYAKI FARM

Vectorworks Architect 2024のシグネチャーやMODUSでもご紹介された遠野未来設計事務所の「OYAKI FARM」。日本でも第36回長野市景観賞を受賞されている、周囲の風景と調和しながらその存在感を誇示する圧巻の建物です。

今回は、OYAKI FARMのデザインプロセスとルーツに迫りました。

 

この大規模なプロジェクトは、地元の木材や土壌を活用し、周囲の山並みに溶け込むように作られました。日本の伝統的な建築技術と現代的な工法を融合させた、優れた建築物です。

プロジェクト:OYAKI FARM by 遠野未来設計事務所

遠野未来氏

このプロジェクト一番の特徴は、なんといっても周囲の山々と美しく調和した柔らかな曲線を描く大屋根です。50m×50mにも及ぶ3次曲面のこの屋根は、細部に至るまで職人技と伝統を物語ります。
杉の梁と棟木が頑丈な檜の梁の上に載り、軒先は3メートルも張り出しており、これらをすべて大工の伝統的手刻みで行ったことで、地域の素材と大工技術を社会にアピールする大きな場となっています。

また、1,500m2という広大な敷地の建物全体が、杉と檜を中心とした準耐火木材で造られています。
北側のガラスのカーテンウォールには、長さ7メートルにも及ぶ杉の大黒柱が配され、自然光が降り注いでいます。土壁のトップライト、自然換気を誘うハイサイドの窓、そして屋根から流れ落ちる穏やかな雨水は、すべて空と大地を並置する導線の役割を果たしています。そうすることで、建物のCO2排出量削減に不可欠な役割を果たしているのです。

母なる大地と日本の伝統への賛歌

「おやき」という言葉には、このプロジェクトの日本の伝統に対する深い敬意が込められています。小麦粉と蕎麦粉を使った皮にあんや野菜を包み焼いたおやきのルーツは、日本の信州地方にあります。ソウルフードに対するリスペクトでありカフェにふさわしいネーミングです。

ここに、地元で調達した木材や建設現場の残土を使用することで、人類の革新と地球そのものの調和のとれたつながりを証明することを目指しています。

これらの素材を使用することで自然との調和が図られ、今後何千年もの間、この建築物は、その土地の天然素材によって「地球に還る」のだといいます。

シンボリックなガラス張りの円形ホールには、太い木の柱とガラスのカーテンウォールがあります。使用されている木材は長野県根羽村産の、杉と檜のほぼ100%無垢材です。

「建築は物理的な存在ですが、最終的には人間の精神に働きかけるものです。私は、建築の持続可能性として自然環境だけでなく、3つのエコロジー(精神、社会、自然環境)=循環 が必要だと考えています」と遠野氏は語ります。

精神エコロジー

この地域は、約2000年前の弥生時代には「竪穴住居」集落でした。発掘調査の結果、多くの赤い土器が出土され、その記憶は建物の高さ5.2mのエントランスホールと大地の隆起に沿って立ち上がる基礎に反映されています。トイレ棟と休憩棟は、建物本体の円形の屋根と呼応しており、かつてのこの地の集落の記憶を未来につないでいます。

社会エコロジー

社会的なエコロジーについては、地域の木材と人、古来の知恵による大工職人技術を使うことにより、素材と技術の継承、人と社会の循環を行っています。

「現代の日本の木造建築の一番の問題点は、大工職人技術を排除して金物と機械化によるプレカットにより建物が作られており、古来からの貴重な知識をないがしろにしていることにあります」と遠野氏は言います。金物を極力使わない、日本の木組み、継ぎ手、仕口による大工技術は、適切な訓練と保存がなされない限り、風化の危機に瀕しているのです。

そこでこのプロジェクトでは、古来の知恵を生かしながら、昔のそのままでない現代の建築として表現することを目指しました。

環境エコロジー

緩やかな曲線を描く屋根を持つ建物は、全体として大地が隆起し敷地左右の自然の土手と山並みの景観と一体となっており、樹木や芝と共生するランドスケープになっています。

工事残土を使った版築のエントランスホールにトップライトからの光が注いで天と地をつなぎ、丸太の自然な丸みを残した木のカーテンウォールが地域の原風景である針葉樹の森を現代につないでいます。

設備としては、最新の浄水技術と井戸水の使用、カフェの冷暖房に使用する工場からの熱の再利用など、環境に配慮し持続可能性への取り組みを示しています。さらに、高窓からの十分な自然光の取り入れとエネルギー効率の高いLED照明が随所に施されています。形状的には北側のエントランスを円弧上にすることで、威圧感がなくとても入りやすくなっています。

Vectorworksでデザインする

「このプロジェクトで最も困難だったのは、各柱位置で異なる柱と梁の形状と寸法を出すことでした」と遠野氏は言います。斜めにせり上がる柱と梁はスパンごとに形と高さが異なります。これらは、実施設計の協力建築家がRhinocerosを使用してモデルと詳細図を作成し、断面図と立面図を作るためにVectorworksにインポートされました。数値を計測して施工者に渡し、大工がそのまま手刻みで木の加工を行っています。

「自分のように建築をシステムや数字からではなく、イメージと絵で考え、それを図面化して最後に数値に落とし込むプロセスの設計者にとって、Vectorworksを使って有機的な建築を作ることは、イメージから図面化までのギャップとストレスがなくとても楽しい作業です」と遠野氏は語ります。「Vectorworksは、グラフィック表現力が大きく、美しい図面を描くことにも長けているのです」

画像提供:遠野未来設計事務所
元記事:Planet Vectorworks