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サステナブルな建物設計のための10のヒント

この記事は【2021年7月6日】に公開されたもので、2年以上経過しています。
記事の内容が古くなっていたり、新機能の追加・機能の改善が図られていることがあります。

サステナブルな建築デザインを実現するための10のヒントをご紹介します。

サステナビリティは、建築家やデザイナーにも浸透しています。
廃棄物を考慮し、地元産の材料を検討し、さらには自分のデザインが周囲にどのような影響を与えるかを考えます。

それでも難しいのは、クライアントがより持続可能なオプションを選べるようにすることです。
これは、クライアントがサステナビリティに反対しているからではありません。サステナブルデザインの長期的なメリットや普及率の高さに気づいていないからです。

「持続可能性」と聞くと、お金がかさむことやデザインを妥協することを思い浮かべる人もいるでしょう。
環境に配慮した建物やデザインにすることが、価値ある決断であると、クライアントに示しましょう。サステナビリティは、JNCOジーンズやたまごっちのような気まぐれなトレンドではありません。これからもずっと続くものなのです。

サステナブルな建築デザインについて誰かに教える前に、「サステナブルな建築デザイン」にさまざまな形があることを知っておくとよいでしょう。

1. 太陽エネルギーの新しいデザイン

ソーラーパネルは、デザインに活用できる持続可能な技術として、最もよく知られているものでしょう。この技術はかなり以前から存在しています。実際、最初の太陽電池が作られたのは1883年のことでした。

太陽のエネルギーを利用することは、より一般的になってきています。

Office of Energy Efficiency and Renewable Energy(エネルギー効率・再生可能エネルギー局)によると、「米国では、太陽光発電はかつてないほど手頃で、利用しやすく、普及しています」とのこと。

ソーラーパネルにまつわる技術的、デザイン上の課題については、皆さんもよくご存知のことでしょう。しかし、太陽エネルギーを前進させる発明はたくさんあります。より薄く、より効率的なソーラーパネルが簡単に入るようになっています。

また、ソーラースキンという技術もあり、さまざまな色のパネルを作ることができます。これによって、見た目の自由度が高まり、クライアントの美的感覚を損なうことが少なくなります。

太陽光発電用の塗料や窓も印象的です。これらの製品は、光を吸収して電流に変えることができます。Solar Reviewsによると、太陽光発電塗料はソーラーパネルよりも11%の効率向上が見込まれるとのことです。

画像:Solar Nub社

また、最新の太陽エネルギー技術によるコスト削減効果は、サステナブルな建築が価値のある投資であることをクライアントに示す手段であることも忘れてはなりません。

太陽光発電技術をより手頃な価格で利用できるようになれば、お客様は長期的に大きな節約ができます。

 

2. 都市農業

都市部でのシンプルでエキサイティングなトレンドは、屋上農業です。

この活動はまさにその名の通り、ビルの屋上に庭を作り、手入れをし、収穫するというものです。屋上緑化は、入居者に新鮮な野菜を提供するだけでなく、都市部のCO2排出量の抑制にも貢献します。

しかし、すべての屋上が植物を何列も並べるのに適しているわけではありません。だからこそデザインの過程で、もっと意図的に配慮する必要があります。屋上庭園を計画する際には、積載荷重、灌水システム、気候、そして庭園へのアクセスを考慮することが重要です。

都市で増えているのは屋上庭園だけではありません。

空き地にも庭や緑が植えられています。庭園と同様に、これらの多様な都市農業は、CO2排出量の抑制に役立ち、住民が自然と触れ合う機会を提供します。これらの生産物は、都市部に住む多くの人々を興奮させるでしょう。

都市農業のもう一つの利点は、都市に花粉媒介者を増やすことができることです。屋上庭園は、昆虫の新たの住処となり、受粉が盛んになることで地域の生態系をより良くすることが期待できます。

 

3. 太陽電池一体型のグリーンルーフ

ピーナッツバターとジェリー※1のように、見逃すには惜しい組み合わせもあります。

先に紹介した2つの革新的な技術は、完璧な組み合わせを実現しています。太陽電池一体型グリーンルーフは、植物と太陽電池パネルを組み合わせたものです。
この方法は、植物がパネルの温度を下げてくれる(より効率が上がる)ので、とても効果的です。これは、日照時間の長い場所と日陰の多い場所があるからです。

※1 北米の子どもたちによく食べられるおやつ・軽食 Wikipedia

画像:livingroofs.org

4. 共存

「自然と一体化する」というのは、古くからある決まり文句です。このフレーズは、森の中でカタツムリとベリーだけを食べて暮らす、毛むくじゃらの仙人のようなイメージを連想させます。

残念ながら多くの建築物は、どんなに美しくても実際には周囲の自然界を阻害しています。だからこそ、省エネ対策は重要です。自然環境をできるだけ維持する努力も必要です。

株式会社北川原温建築都市研究所は、そういった努力を重ね中村キース・ヘリング美術館を設計し、実際に周囲の原生林を保護しました。八ヶ岳の森の中にたたずむこの美術館と温泉の複合施設は、自然界の長寿命化に貢献するものとして、数々の賞を受賞しています。この抽象的な構造は、建築家がどのようにして自然の立地を意図的に利用することができるかを示す好例です。

画像:株式会社北川原温建築都市研究所

 

5. パッシブデザイン

自然と一体化した建築デザインを語る上で、パッシブデザインについて触れないわけにはいきません。

オーストラリアのYourHomeは「パッシブデザインとは、気候を利用して家の中の快適な温度帯を維持するデザインです。パッシブデザインは、補助的な冷暖房の必要性を減らしたり、なくしたりできます」と述べています。

冷暖房による温度の調整は、膨大なエネルギーを使用します。冷暖房などの空調を必要としないことは、費用対効果が高いだけでなく、非常に環境に優しい選択と言えます。

画像:Green Home Technology Center – The Ohio State University

パッシブデザインにはさまざまな形があり、このデザイン哲学は、以下の建築の方向性に活用できます。

日射や日陰・自然の風に合わせてデザインを作るには、慎重な計画・実行が必要です。しかし、それだけの価値はあります。パッシブデザインは余分な技術を追加することなく、コストとエネルギーを大幅に削減することができるからです。

 

6. エネルギーマネジメントシステム

地域の気候や設計仕様などの理由でパッシブデザインを採用できない場合、エネルギーマネジメントシステム(EMS)を導入することで、持続可能な気候制御が可能になります。

EMSを採用した素晴らしいデザインのひとつが、Bearth & Deplazes Architekten AGによる「Monte Rosa Hut」です。

ここでは住人の数や地元の天気予報をもとに使用量を計算するシステムが採用されています。これにより、Monte Rosa Hutは90%の自給自足を可能にしています。

画像:Bearth & Deplazes Architekten AG

住宅所有者や不動産管理者とEMSについて話し合う際には、必ずROI(費用対効果)を強調しましょう。確かに、このようなシステムは投資が必要ですが、長期的には確実にクライアントのお金を節約することができます。あなたが簡単な計算をするだけで、どれだけ早くお金を取り戻せるかをクライアントに伝えることができます。

 

7. サステナブルな素材

エコフレンドリーなデザインの最もエキサイティングな挑戦のひとつに、「サステナブルな素材の使用」があります。私たちはこれを課題ではなく、サステナブルな手法をさらに取り入れるチャンスだと考えています。

次の設計から、以下のようなサステナブルな建材を検討してみましょう。

画像:RISE Design Studio

Vectorworksでは、デザインに使用されているすべての素材(マテリアル)に値を設定できます。このように綿密な計画を立てることができれば、クライアントにサステナブルな建材の選択肢を知ってもらうことができます。

 

8. カーボンニュートラルへの挑戦

「カーボンニュートラル」はより環境に優しい未来を目指す、多くの取り組みで指針となる言葉です。これは、二酸化炭素を排出しないイベント・製品・構造物を指しています。これまで述べてきたデザイン要素はすべて、カーボンニュートラルなデザインへの取り組みに役立つものです。

カーボンニュートラルはサステナブルな建築・デザイン・ランドスケープの目標であるべきです。実際に、世界中の都市がカーボンニュートラルを目指しています。アムステルダム、ボルダー、グラスゴー、ロンドンなどがその例です。

画像:CNCA社

しかし、カーボンニュートラルな建物を語る上で見落とされがちなのが、「建設」という重要な要素です。
実際、建設業界はCO2排出量の38%を占めています。前述したVectorworksの機能(マテリアル)を利用して、BIMに炭素値を埋め込むことができます。これにより、カーボンニュートラルな建物を設計するために必要な情報を得ることができ、その過程で詳細な計画を立てることが可能です。

 

9. BIMによる効率的な施工計画

工事には無駄がつきものです。当たり前のことですが、時間を無駄にすればするほど、材料も無駄になる可能性が高くなります。
だからこそ、BIMを使った効率的なプランニングは、環境にやさしい設計プロセスになります。
これまで述べたように、BIMはみなさんとその協力者に「一貫した単一の情報源」を提供し、関係者全員の業務システムを合理化することができます。

インフォメーションモデリングは、サステナブルなデザイン・建築に役立つことが数多くあります。例えば、スティーブン・シュレイダー氏(PLA、ASLA)は、BIMツールをランドスケープ・アーキテクチャーの業務に取り入れました。シュレイダー氏のデザインは、LEED、Sustainable Site(SS)、Water Efficiency(WE)のクレジットを獲得しており、整理されたワークフローも確実に役立っています。

10. 貯水と水収支の計算

環境に配慮したプロジェクトで最も重要な資源の一つが水です。そして、そのための工夫のひとつが、貯水システムです。しかし、この貯水システムをどのように実現するかは、みなさん自身の設計スタイルにかかっています。

おそらく、技術的に最も素晴らしい貯水システムのひとつは、9/11 Memorial Museum(PWP設計)のランドスケープ・アーキテクチャーに採用されているものです。2つのコンテナが配置され、最大58,000リットルの雨水を回収します。この雨水は、かつてタワーが建っていた場所を象徴する2つの噴水が設置された空洞で使用されます。このプロジェクトはニューヨークで最大のサステナブルなプロジェクトのひとつです。

写真:PWP Landscape Architecture

水収支の計算は、水の使用をより持続可能なものにするための設計にも利用できます。水収支を正確に計算することは、US Green Building CouncilSustainable Sites Instituteなどの建築物やサイトの評価を得るために非常に有効です。PCLD社のランドスケープアーキテクトであるクリス・ロバーツ氏は、水収支の計算にVectorworksを使用しています。カリフォルニア州のオールドタウン・ニューホールを設計する際、ロバーツ氏は「一滴の水も無駄にしないようにしたかった」と語っています。

画像:USGBC

 

この記事を読み終えたら、クライアントと共有して会話を始めてみてください。

ちょっとした情報が、クライアントの持続可能な建築設計に対する戸惑いや躊躇を解消することに役立ちます。プロジェクトのコンサルティング段階では、クライアントの要望に対してクリエイティブでサステナブルな解決策を見出すことができます。

その際には、これらの決定・提案が、妥協ではなく意図的なものであることを明確に伝えるようにしましょう。地球や地域経済に貢献するために美意識を持って決断をしていることをクライアントが理解すれば、賛同してくれる可能性が高くなります。芸術はデザインの中だけではなく、コミュニケーションにも存在します。

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元記事:Planet Vectorworks